武道の神髄が宿る火縄銃を修繕する 内大輔

 


内大輔宅の玄関。日本とアメリカの文化が混在する

 

見て覚えろではない。ふれていじって覚えろだ

 

内大輔は、工房を構えていない。

 

神奈川県の住宅街の、外観からはそこで火縄銃が修復され、弾丸が製造され、インディアンジュエリーが作られ、革細工が作られているとは思いも寄らない一軒の自宅が、内大輔と彼の弟子たちの仕事場である。

 


先輩弟子の西山まなみが、新人弟子の遠藤星に手ほどきする

 

キッチンの隣に、手仕事の机があり、火縄銃が並ぶ。
火縄銃を丹精するのは、自宅の庭である。
弾丸を作るのも、門柱近くの小さな庭で行う。

 

「工房を作ると、通うのが面倒くさいですから」

 

玄関を入ると、陣笠とテンガロンハットが帽子掛けに並ぶ。ウェスタンナイフと、木刀が傘立てに収められている。

 

この空間の秩序ある無秩序が、内大輔の内なるコスモ(宇宙・世界)の風景なのだろう。
世界はカオス(混沌)で成り立っている。

 

矛盾も無秩序も二律背反も包み込んでこそ、世界そのものなのだ。

 

弟子の育成の方針にも、内大輔のカオスが反映されている。

 

「職人の世界では、見て覚えるものだってよく聞きます。いやいや、見るだけで覚えられる人は、一握りですよ。ふれて、いじって覚えろだと、私は弟子たちに言っているんです」

 


守屋勁は台木に凧糸を巻いて6年前から修復を続けている

 

弟子がいじり方を間違えて、問題を起こしたら、内大輔が手助けをする。修理をする。

 

西山まなみは、和雑貨店で働いていて内大輔と知り合った。
内大輔は和柄のポーチ、お香、手ぬぐいなどを買いに来ていた。

 

「全身ウェスタンルックで来ると思うと、別の日には紋付き羽織袴で来るんです」

 

アメリカへの土産品を買い求める内大輔に、どんな仕事をしているのかと西山まなみは尋ねた。

 

「火縄銃の職人だと聞いて、後継者がいないと聞いて、私が継ぎたいと申し出たんです」

 


「おい、道具を持ってきて」と指示する内大輔

 

守屋勁(つよし)は、剣術をたしなみ火縄銃を所持していた。

 

「銃砲店に持ち込んだけれど、直せなかったんです」

 

内大輔に相談したところ、射撃できる火縄銃へと修復がかなった。
弟子入りしたのは66歳のときだった。

 

「金属加工、木加工、物理学、化学……。まだ道半ばにも至っていない。それでも火縄銃との付き合いは続けるつもりです」

 

遠藤星(あかり)は、幼い頃から銀製品が好きで、彫金で指輪を作りたいと思っていた。

 

「アニメ映画の『もののけ姫』でしか火縄銃を知らなかったのに、銀細工加工を教えてもらいに尋ねたら、火縄銃の本物が置いてあって……」

 

銀細工で指輪を作ることと、火縄銃を修復することとの関係は、どこかでつながっているとひらめいた。

 


自宅兼工房前にて 遠藤星、内大輔、守屋勁、西山まなみ(左から)

 

年齢、性別、動機、手仕事との関わり方。
内大輔のもとに集まった弟子たちは、カオスそのものである。

 

夢中になれる手仕事を自分の拠として生きようと決意している。それだけが共通している。

 

内大輔は好きなことに、好きなだけ、広く深く打ち込んだ。

 

「その人だけの個性、人格、考え方がある。矯正してはいけないんです。職人技は、直伝ではあっても、相伝ではないと、私は考えています」

 

それが内大輔の弟子の育て方であり、自らもそう育って、いまなお職人の道を歩んでいる。

 

いにしえの火縄銃は、内大輔の仕事で現代に命脈を取り戻し、とこしえの未来へと伝えられていくだろう。

 

悠久の流れを絶やさない為に、内大輔と弟子たちは、今日も手を働かせているのである。

 

 

取材・文章/浦山 明俊
撮影/中野 昭次・吉野 健一
編集/吉野 健一

 


 

記事内容に関する問い合わせ窓口:一般財団法人雇用開発センター
問い合わせフォームか、03-5643-8220まで