日本の技術の精度とは何か マツダ自転車工場

 

 

手作りゆえに0.5ミリの誤差を許さない

 

自転車の精度は、芯取りで決まる。

 

自転車用の薄いパイプは溶接の熱の影響で、ゆがみが生じる。

 

設計図通りにできあがっているか。

 

前輪、フレーム、後輪。その中心をゆがみなく一直線に芯が通っているか。その線にずれがないか。

 

マツダ自転車工場では、0.5ミリの誤差の範囲にすべてを収める。

 


接合部は強度を保ちながらも極限まで薄い

 

老齢の男性がパンクした自転車を、マツダ自転車工場に持ち込んだ。

 

パンク貼り、1件1100円。

 

「1日に5人がパンクした自転車を持ち込んだとして5500円の売り上げかな。でもウチは自転車屋なんだから、お客さんに来てもらわないと」

 

ショールームから作業場が覗けるように窓が設けられている。

 

「ああ、ここは自転車を売っているだけじゃなくて、作ってもいるんだと関心をもってもらいたいからね」

 

自転車職人は自転車を作ることに没頭すると、自分が納得できる精度を追求してしまうのだと松田志行は憂慮する。

 


パンク貼りの仕事も無駄なく素早く丁寧に

 

「自己満足で仕事をするようになったら、職人は誰からも相手にされなくなるんです」

 

だから、マツダ自転車工場で修行をする社員たちには、

 

「店頭に立て、接客を覚えろ、その人が自転車をどう使っているのか観察しろ」

 

と指南するのだという。

 


CITY LINERは羊の皮を被った狼と評される

 

CITY LINERは1995年に、競輪選手が婦人用自転車(通称・ママチャリ)に乗っている姿を見て創案した。扁平なフレームと内装3段変速仕様。

 

奇をてらった容姿はしていない。だが既成概念を打ち破る自転車だった。

 

スポーツ用ロードレーサーに踏み切れないが、ママチャリでは満足できない層を掘り起こしたヒット製品になった。

 


父・志行と、息子・裕道の親子の肖像

 

精度とは数値で競えるものだ。

 

私を含め、多くの人たちはそう思っている。

 

精度とは、ストイックに追求した先にあるはずだ。

 

私を含め多くの人たちは、そう幻想している。

 

精度の高い製品がそこにあるなら、使いこなせるまで自分をこそ磨かなければならない。

 

私を含め、多くの人たちがそう思い込んでいる。

 

ましてや、自転車には仕方なく乗っているとの自覚すら持たない。

 

だが自覚のない違和感が、じつは自転車には存在していたのだ。

 

使う人が感じる違和感を、徹底的に排除して、満足なものを作る。

 

そこにストイックは持ち込まない。無駄をせず、面倒を嫌わない。

 

使う人の使い心地を、先読みして具現化する。製品として作り上げる。

 

松田志行は、こうした観点からじつに日本の職人らしい、自転車作り職人なのである。

 

 

取材・文章/浦山 明俊
撮影/田口 るり子
編集/吉野 健一

 


 

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