日本の技術の精度とは何か マツダ自転車工場

 


何度も設計図を確認する

 

ボクサーのように自転車を作る

 

フレームを作る松田志行は、リングの上のボクサーに見える。

 

フットワークは軽く、弾むように身体を動かす。

 

「競輪は9人で走ります。1レースにかかる時間は3分ほど。1開催3試合でおよそ10分。1ヶ月に3開催で30分。1年間のレースをこなして6時間。競輪選手が全力でこぐ自転車はトータル6時間で、もうへたっちゃう」

 

6時間使われた自転車は、作りたてと比べると劣化して乗り味が変わってしまうという。

 

トップレベルのS級の選手は、1年間に1台から2台をオーダーする。

 

「体型が変わる。筋力が変わる。するとフレームのしなり方が変わる。バランスが変わる。その変化に、競技用自転車はついていかなくてはならない。いや、ついていくのでは間に合わない。その選手は2着になっちゃう。オーダーメイド自転車というものは、乗る人を納得どころか、驚かせなきゃいけないんです」

 


ショールーム正面に飾られた競輪用自転車

 

競輪はときに着差が3ミリで1着と2着が決まる。

 

「1着で1億円、2着だと5000万円。勝てる自転車を作れるかどうかだ」

 

ロウづけした部分が冷めていく。
松田志行はすかさずパイプにヤスリをかける。

 

金属ヤスリは4回しかかけない。布ヤスリに取り替えて6回。さらに別の金属ヤスリで4回、別の布ヤスリを6回。目の粗いヤスリから、目の細かいヤスリへと、早業で溶接部を磨き上げていく。

 


布ヤスリは往復6回、しかも素早い

 

別のパイプを手にして、バーナーに点火。次なるロウづけの作業に入る。

 

火を使い終えると、松田志行はすぐにバーナーを拭く。工具を拭く。作業台を拭く。

 

「仕事場をきれいにしておく。油一滴を落とさない。何が原因になって事故が起きるか分からないですからね」

 

溶接にも無駄なロウがはみ出したりはしていない。

 

「先にきれいにロウづけしておけば、あとからの仕上げの工程が楽になるでしょ」

 

松田志行は、にやりと笑った。

 


ロウは必要以上にはみ出さず、まったく無駄がない

 

「楽をすることも、大事です」

 

手を抜くのではない。無駄のない一連の仕事を、流れに乗るようにしてこなす。

 

無駄がなくなれば、仕事は楽になる。

 

溶接を施すパイプには、小さな穴が開いていた。

 

しかし完成した自転車のフレームには穴は見当たらない。

 

「溶接するときにあらかじめパイプに穴を開けるのは、ロウ付けの熱で発生するパイプ内部のガスを逃がすためで、もしピンホールがあると、塗装をした後の熱処理をする際にそこからパイプ内部の空気が噴き出して塗装がダメになるんです」

 

パイプの内側にも、酸化防止とロウを回りやすくするためにフラックスを流す。

 

いわば、初めに開けた小さな穴は圧力の逃がし穴なのだ。この逃がし穴は必ず塞ぐ。

 


フラックスを最小量に塗る

 

「パイプの内部に空気が入ると酸化してさびます。仕上げに内側をさびさせないために穴塞ぎをするんです。この穴が空いたままの自転車を見かけるんですよねぇ。量産自転車には多い。あれじゃ、さびちゃう。えっ、もちろん面倒くさいですよ。でも大事なことって、大抵が面倒くさいでしょう」

 

松田志行の仕事は面倒を嫌わず、無駄を嫌う。

 

仕事場を、工具を、服装を常に清潔に保つのは面倒を嫌わないからである。

 


一流のボクサが一連の作業に没頭するかのようだ

 

いったん作業に入ったら、ボクサーのようにステップを踏みながら、1秒を惜しむかのように、フレーム作りに没頭するのは、無駄を嫌うからである。

 


 

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