日本の技術の精度とは何か マツダ自転車工場

 


松田志行が自転車作りの哲学を語る

 

自転車はつらい思いをさせたらダメ

 

プロのための自転車を作る技術で、一般の人向けの自転車を作るだけではいけないと松田志行は言う。

 

「筋肉を鍛えて、つらい練習を我慢して乗るなんて一般の人に求めちゃだめだよ。速ければいいってことじゃないでしょ。乗り心地がいい。楽だ。楽しい。この自転車が好きになっちゃった。移動の道具だけれど、生活の相棒だ。そう思ってもらえる一台を作りたいわけです」

 

 


脚が不自由でも乗りたくなる自転車・優U

 

ペダルに取り付けてあるクランクが左右で異なる長さの自転車を見つけた。優Uと名付けられている。

 

人工ひざ関節手術を受けた高齢者向けに作っているという。

 

「健常な片脚だけでこぐのは負担なんですよ。不自由なほうの脚でもこげると自転車は楽しいし、移動の道具としても味方になってくれる。車椅子だけじゃない、自転車だって脚が不自由な人の乗り物になり得るってことです」

 


優・Uのペダル部分のパーツを乗る人に合わせてセッティングする三代目・松田裕道

 

明確な目的。マツダ自転車工場はその出発点から自転車を作り始める。

 

「競輪選手なら体格、筋力、その選手が一番力を発揮できる乗車姿勢、戦法などすべて理解してから作るんですよ」

 

だから同じような体格の他の選手が乗ったとしても、勝てるとは限らない。

 

一般向けには、通勤か、買い物か、町から町への移動か、フィットネスか。乗る人の購入目的を聞く。

 

身長、肩幅、脚の長さ、腕の長さ、体重などを計測し、身体の硬さも参考にする。

 

集めたデータを元にCAD(コンピュータ設計システム)で設計する。

 


これから自転車に生まれ変わる部品たち

 

自転車作りにCADを採用したのは、業界でマツダ自転車工場が最初だった。

 

1983年にデザイナー、旋盤工、社員3名、プログラマーとで開発した。

 

それ以前は、模造紙に設計図を原寸大で描いていた。

 

「CADなんてのは、正確な計算をするための、しかし、しょせん道具ですから。データの入力で結果がけっこう違う。いくらコンピュータだからって、頼っちゃいけない。頼りすぎると、職人の目や手や耳は怠け癖がついて、衰えます」

 

そう言うと、松田志行はクロームモリブデン鋼のパイプを手に取り、内空を覗いた。

 


松田志行の競輪用フレーム作りが始まる

 

ゆがみがないかを目で確かめているのだろうと、私が思う暇もなく、アセチレン・バーナーに着火した。

 

真鍮ロウ、銀ロウなど太さや種類の異なる8種類のロウを溶接する部分によって使い分ける。

 

熱したパイプの色の変化を見て、最適なタイミングでロウづけをする。

 


接合部にまんべんなくロウ付けを施す。

 

松田志行は、何度も壁に掲げた設計図を確認する。

 

上が25.4ミリ、縦が28.6ミリ、下が31.8ミリ。

 

前三角のフレームのロウ付けを終えて角度を計測する。

 

73度30分。その角度に合わせたのか、その角度であることを確かめたのか。

 

松田志行の仕事は、手際が速すぎて、何をしたのか瞬時には確かめられない。

 


角度を計測すると1分の狂いもなかった

 

「1度の違いが生じると、パイプの長さが10ミリ違ってしまうんですよ」

 

寸法の狂いは、競輪選手に違和感を与えてしまうという。

 

蛍光灯12灯の明るく照らされた工房に、松田志行はステップを踏む。

 


 

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