小豆をあんに仕上げるために丸2日をかける
目に見えないきずなをたぐっていくと
翌朝、ざるを全部開けて、小豆が吸った蜜をはき出させる青木博の姿があった。
おだやかだった顔はない。緊張の綱渡りをするかのように小豆の状態を見つめる。
蜜をはき出した小豆を釜に入れる。
スバル最中に詰めるあんが仕上がりを迎え、練りあげられる。
機械は使わない。スバル最中の皮にあんを詰める作業はすべて手仕事である。
守り続けるだけではない。進取の気性が伊勢屋にはある。
最中の皮にあんを詰める際もすべて手作業
3代目、岡田喜浩が修行を終えて、伊勢屋に帰り、社長に就任したときに、
「バターどら焼きを作りたいと提案したんです」
伊勢屋を支えていた職人たちからは猛反対をくらった。
「バターの匂いが、へらや板や道具に移ったら、和菓子にも匂いがつくって反対されたんですよ」
それでも作りたいと岡田喜浩は信念をつらぬいた。
バターどら焼きは、いまでは伊勢屋の名物菓子になっている。
「だって、あんことバターの組み合わせは美味しいでしょう」
つらぬくからには、和菓子職人としての格闘があった。
小麦粉1:卵1:砂糖1の配合である。
バターどら焼きは、温度に敏感な和菓子だ
「三度割りといいます。どら焼きの皮を焼くときの配合ですね。試行錯誤して配合を変えたりしたけれど、結局は伝統の配合に戻りました。重曹やベーキングパウターを混ぜるところもありますけれど、うちは三度割り。バターと相性を良くする工夫を忍ばせています。でも、それは企業秘密です」
試行錯誤の果てにたどり着いたのが、結局は伝統の職人技だったと岡田喜浩は笑う。
だが、試行錯誤しなければ伝統の職人技の重みにはたどり着けなかったとも言う。
「2019年には、私の息子が修行を終えて、伊勢屋の4代目に就任します。さて、どんな新しい美味しさを、のれんに掲げるのやら楽しみです」
岡田キヨが「はい、お嬢ちゃん」とSUBARUの旗を渡す
スバル最中には、さらに言えば伊勢屋の和菓子には、きずなが見える。
まずは、太田市の町の人たちとのきずながある。
8月5日。取材をお願いしに初めて伊勢屋を訪れた日は猛暑だった。
かき氷大人、200円。子ども、100円。
私は氷イチゴを頬張った。
母親と男の子が、隣でやはりかき氷を食べていた。
「あれね、気軽に店内に入っていただきたいとの願いから提供しているんです」
どら焼き1つ、団子1つ、きんつば1つから買える和菓子屋が太田市の町にはある。
「子どもがお小遣いを握って買いに来てくれる店でありたいんです。そのためにはここに和菓子屋があると気がついてもらわないと。いまはコンビニでも和菓子を売っていますから」
次に、SUBARUとのきずながある。
株式会社SUBARU製造本部群馬製作所の総務部課長代理の遠山茂が、取材中の私たちをねぎらってくれた。
「知的財産であるSUBARUのブランドが、太田市の地域の活性につながっています。SUBARUあり、スバル最中ありの太田市に住む人も、来る人も、これからもSUBARUを愛して欲しいと願っています」
そして、全国のスバリストたちとのきずながある。
ここに来なければ買えないスバル最中。
スバル最中を求めて、日本各地からスバリストたちは伊勢屋を訪れる。
SUBARUの遠山茂総務部課長代理と筆者
目に見えないきずなをたぐっていくと、SUBARUの懐の深さに気がつく。
たしかに知的財産であるSUBARUのブランドを、町の小さな和菓子屋に託しているのは、何とも心が広く、包容力があるではないか。
目に見えないきずなをたぐっていくと、伊勢屋の職人魂に気がつく。
美味しいからこそスバル最中。名物だからではないと味に手を抜かない。
群馬県太田市の小さな和菓子屋、伊勢屋に結ばれているたくさんのきずなを確かめるために、私はスバル最中を買い求めた。口に運ぶ。
「うーむ」
と、これがまた、うなるしかない美味しさなのである。
取材・文章/浦山 明俊
撮影/中野 昭次・吉野 健一
編集/吉野 健一
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