破ることで守る伝統工芸 蒔絵師・野村大仙の挑戦

 

 

最先端企業と日本の伝統工芸

 

ヤマハ発動機株式会社の長屋明浩は、開口一番にこう述べた。
「ヤマハの造り出すモノは、工業製品でありながら工芸が息づいている製品なんです」
クラフトマンシップ、すなわち職人による手仕事が随所に施されているという。
長屋明浩は執行役員・デザイン本部本部長・ブランド委員会委員長の職にある。
ビジネスマンらしからぬ服飾のスタイルに驚いた。
「YA-1というバイクは、マフラーの先端の加工であるとか、溶接の技術が活かされているとか、ディテールを見ていただくと量産の工業製品でありつつ、手仕事を大切にした工芸製品でもあるモノ作りが、多くの人たちから支持された理由だと思います」
語る長屋明浩の服飾にはどこにもスキがない。

 

ヤマハ発動機株式会社の長屋明浩

 

既成概念にとらわれると、発想や行動や交流はがんじがらめになってしまうものだ。
「蒔絵で2社のモニュメントを作るのは、古びた伝統工芸へのエールではなく、2社が大切にしてきた、手仕事によって感動を生み出すというポリシーと親和性が高いからです」
2018年現在の蒔絵は、棗や文箱や硯箱、長皿に施すものだという既成概念にしばられていても50年後、100年後には別のモノに装飾されているかもしれない。
長屋明浩のファッションもまた企業人の服飾はかくあるべきという既成概念へのテーゼかもしれない。
「守るためには、打ち破らなければならない。野村大仙さんは、挑戦的な蒔絵師だとお目にかかって感じました。伝統を守ることは大切だけれど、既成概念を破って、新たな価値を創り出すことも大切です。」
文化も伝統も、そうした進化を繰り返して本質を守り続けてきた。

 

長屋明浩とヤマハ株式会社のデザイン研究所所長の川田学/ヤマハディにて

 

ヤマハのバイクSRシリーズも新たな価値を創り出すことで、進化を遂げたという。
初期モデルの1978年から長く愛されてきたバイクは、二輪車平成28年排出ガス規制に対応するために、エンジンのECU、それに伴う電装類のレイアウト、排気系の変更、キャニスターの追加、灯火器類の法規対応をして再び発表された。乗り味とスタイルを残そうとした。
「進化というより、深化ですね。深く見つめ直すことによって製品の価値を高めるんです。それは原点回帰という単純なものではありません」
本質はぜったいに忘れない。しかし時代に合わせて、概念を打ち破って進む。
「するとモノは上昇気流のスパイラルに乗って残り続け、愛され続け、時代に合わせて進化を続けていけるんです」
現代の排ガス規制をクリアする。それは技術の深化を求められる課題だったという。
「簡単ではないですよ。技術者たちは、自分の技術の限界を、乗り越えなくてはならないんですから。でも乗る方たちに感動を感じてもらうためにはやるしかないんです」
できる技術に、できる表現に、できるモノ作りに甘んじていてはいけない。

 

進化であり、深化でもあると語る長屋明浩

 

2108年10月12日から14日、場所は東京・六本木ヒルズ。
ヤマハ発動機株式会社と、株式会社ヤマハの合同デザイン展が催された。
2つの会社が養い続けてきたブランドの、伝統と成長と未来を披露するイベントであった。
ヤマハ発動機株式会社は、蒔絵という伝統工芸を、現代に息づかせようとする野村大仙に対して、ヤマハのモニュメント製作を依頼したのだという。

 

ヤマハディを飾った野村大仙作のモニュメント

 

2018年8月21日に、私は野村大仙の工房で見つめていた。
朱色の漆をふくませた筆先を、息を殺して、モニュメントの表面へと運ぶ。
その試みは、時代にあらがう格闘で終わるのか。
それとも日本の伝統工芸、蒔絵の未来への扉を開くのか。
蒔絵の現状を嘆いて、嵐の中、雨に打たれながら、必死に伝統という旗印の凧を揚げ続けようとしたさすらいの日々。
たぶん嵐は、まだ止んではいない。
いつ止むか分からない嵐の中にいて、野村大仙は息を殺して筆先を静かにモニュメントにおろす。

 

 

取材・文/浦山明俊
撮影/戸澤裕司・吉野健一
編集/吉野健一

 


 

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