平らな銀盤を槌で打ち出して、曲面に仕上げる 笠原銀器

 

 

純銀を打ち出しで球体に形作る

 

純銀である。銀100パーセントの銀製品を笠原信雄は作っている。
笠原信雄は1941年、銀器職人の家に生まれた。

 

一般に欧米などにおける銀製品は925である。
別名はスターリング・シルバーと呼ばれる。

 

銀が92.5パーセントで残りの7.5パーセントは銅などの混ぜ物をした合金である。
銀は、柔らかくて、加工が難しい。さらに製品にしたときの強度が弱い。

 

だから大抵の銀製品は加工しやすいスターリング・シルバーなのだ。

 

92.5パーセントの銀含有率であっても、こちらも純銀と呼ばれる。
加工がしやすく、硬くなるため強度も増す。

 


円形に切った銀盤を丸め始めた

 

しかしなぜ笠原信雄は100パーセントの純銀で製品を作るのか。

 

「昔っから、純銀で作ってきたからなぁ。それこそ江戸時代からね。混じりっけなしの純なものを作り、混じりっけなしの銀器を使うってぇのが、江戸っ子らしいってことじゃないですか」

 

スターリング・シルバーに比べると、柔らかいことで銀器の破損などは起こらないのだろうか。

 

「そこのところは、日本人てぇのは、物を大切に扱うからねぇ。めったにへしゃげたりはしねぇですよ。だいいち、へしゃげるようには作ったりはしねぇもの」

 

加工技術で、純銀に強度を与えるのだという。

 


木台のへりに当てて、銀を球体に絞り上げてゆく

 

どうやって加工するのか。

 

打ち出しである。平たい銀の板を、槌(ハンマー)だけで叩いて球形を作る。

 

「まずは基本を見てもらいましょうか」

 

笠原信雄は、あぐらをかき、銀の板にコンパスで円を描いた。銀板をはさみで切る。

 

この切り出しの段階で、完成品がイメージできていなければならない。

 

「品物の底の大きさや、高さを計算してのはさみ入れなんです」

 

叩いていったら、足りなくなってしまったというわけにはいかない。

 

かといって、余りが出ると絞りをかける手間が増えるし、その段階ではさみで切って大きさをごまかすというわけにもいかない。

 


木台の次はあて棒に乗せて球体を立体化する

 

「計算式もあるにはあるんだけれど、それより経験ですね」

 

丸く切った銀板を、クレーターのような広い穴の空いた木塊に乗せた。

 

トントントンと叩いて、縁を曲げる。打点のデコボコのしわは、しだいになめらかに銀板の縁に吸収されてなめらかになっていく。そしてお盆のようなものが出来上がった。

 

「まぁ、ここからさらに叩き上げて、球体に加工していくんだけれど、これで理屈は分かったでしょう」

 

仕事場は、お世辞にも広くて整然としているとはいえない。

 

「狭くって散らかってて、ごちゃごちゃしているでしょう。でも、何がどこにあるかは、私には分かっているんです。手を伸ばせば道具がある。片付いていたら、かえって仕事はできなくなっちまうもの」

 

何種類もの槌、ヤスリ、ペンチ、やっとこ、作りかけの銀器。座布団の周りにすべてがある。

 

手を伸ばす位置に、文房具入れがあり、電話があり、古いパソコンが置かれている。

 


散らかっていないと仕事にならない

 

何といっても、目に付くのは笠原信雄の前に陣取っている切り株のような穴だらけの木塊だ。

 

あて台と呼ばれる木塊はケヤキだそうだ。

 

穴だらけのあて台に、あて道具と呼ばれる太い金属の棒を突き刺す。
あて棒を固定するために、木片を打ち込んですき間をなくすこともする

 


あて台にあて棒を木槌で打ち込む

 

あて棒に乗せた急須の注ぎ口を、笠原信雄は槌で叩き始めた。

 

饒舌だった笠原信雄の言葉が止んで、仕事場には槌の音だけが響き始めた。

 


 

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