伝統と変革を綾なす江戸組紐 龍工房

 

組紐職人という表現者でありたい

 

目の前に、カメラストラップが現れた。
 
つなぎ目なく、組まれた組紐のストラップだった。
 
伸縮性があり、耐久性があるのはひと目で分かる。
 


 
「組紐といえば、帯締めという既成概念を破って行かなくてはなりません」
 
と福田隆は、組紐のブレスレットも見せてくれた。
 
「これは息子の隆太が考案して組み上げた製品です」
 
福田隆太は、ストールを取り出した。
 
編んだのではなく組紐の職人技で組んだストールである。
 
ボールペンが目の前に現れた。ペン軸が組紐である。
 
ペン先は津軽塗。ホテル、旅館に収められているという。福田隆は言う。
 
「チェックイン・カウンターで、東京の江戸組紐と青森の津軽塗のペンがお出迎えするんです。海外から日本を訪れるお客様に、日本の職人技を手にしていただく。名誉なことです」
 
日本人の宿泊客にとっても、日本の伝統の再発見の機会になるだろう。
 
この“くみひもうるしペン”の製作には、組紐の歴史に革新をもたらす技術が込められている。
 
中空二重構造の組み方を、龍工房では考案した。
 
本来は、すき間なく組むのが組紐であり、中空二重構造の組み方はこれまで存在しなかった。
 

組紐をもっと身近にと考案されたブレスレット
 
組紐の用途といえば、和装の帯締めという固定観念を、福田隆太は覆そうとしている。
 
「積み木で遊ぶよりも、組紐を組みながら遊んでいました。3歳か4歳のときですね」
 
手ほどきを、受けたのではなく、見て真似て、組紐の組み方を覚えたという。
 

新技術で組まれたくみひもうるしペン
 
「手が空く時間は、常に仕事をしている状態でありたいんです」
 
職人という自覚よりも、福田隆太の内側にある想いは芯が通っている。
 
「表現者でありたいんです。僕は組紐職人であって、単に紐を商っているわけではないから」
 
ストールや、くみひもうるしペン、カメラストラップなどの新機軸は、福田隆太の想いから誕生した。伝統でありながら、変革でもあるものを手仕事に表現したいのだという。
 
「東京のお土産に、組紐を持ち帰ってもらいたい。でも帯締めでは多くの人たちから手に取ってもらえないかもしれない。よし、それならブレスレットを作ろう。そんなふうに、“使ってもらえる組紐”に仕上げるにはどうしたら良いのか。発想をすることから仕事を始めています」
 
意気揚々たる福田隆太だが、こんな本音をもらした。
 
「変革に立ち向かうのは、怖いですよ。伝統にないものを作って、伝統を壊してしまうかもしれないって、不安でいっぱいです。でも技術は伝承させて行かないと、組紐の伝統そのものが消えてしまうかもしれない。だからチャレンジしているんです」
 
編むのではなく、織るのではなく、あくまでも組む。それが組紐だ。私は福田隆に確認した。
 
「組む作業こそがクラフトの始原ですよね」
 
福田隆は、首を振った。

 

編み物ではない。組紐の技術で組んだストール
 

「組む前に、撚ることから人間はクラフトを始めたと思います」
 
なるほど、組紐の絹糸は撚るところから始まる。
 
「釣り糸などは、繊維が乏しかった太古に、撚ることで強度を高めていたと思います」
 
絹糸を撚る。強度を得た絹糸が組紐として組み込まれていく。
 
江戸組紐の職人が集う龍工房では、今日も腕に撚りをかけて組紐を組んでいる。
 

 

取材・文章/浦山 明俊
撮影/川口 宗道
編集/吉野 健一

 


 

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