伝統と変革を綾なす江戸組紐 龍工房

 

『君の名は。』に観る組紐の意味するもの

 

アニメ映画『君の名は。』(新海誠監督/2016年/東宝)が大ヒットした。
 
モチーフには組紐が使われた。劇中(アニメ)の組紐を現物化したのは龍工房であった。
 
東京に暮らす青年・立花瀧と、飛騨の山奥で暮らす少女・宮水三葉の物語であった。
 
私には三葉の祖母のセリフが印象的だった。
 
「土地の氏神様を“ムスビ”という」
 
祖母のセリフはこう続く。
 
「糸をつなげることもムスビ、人をつなげることもムスビ、時間が流れることもムスビ。全部神様の力や。わしらの作る組紐もせやから、神様の技。時間の流れそのものを現しとる。寄り集まって形を作り、ねじれてからまって、ときにはもどって途切れ、またつながり、それがムスビ。それが時間」
 

映画『君の名は。』に登場した組紐
 
ムスビは「むすひ」である。産霊、産日、産魂と表記される
 
「むす」は産まれるの意味で、「ひ」は神霊、太陽、魂である。
 
日本の国家、君が代の歌詞にもある。苔のむすまでの苔むすである。
 
自然発生して産まれる命、出産はその概念に包括される。
 

角台で組んだ紐は上方に伸びる

 
古事記、日本書紀にはこの世界を創世した神としてタカミムスビとカミムスビが登場する。
 
タカミムスビはアマテラスが天岩戸に隠れたときにアマテラスを帰還させている。
 
カミムスビは兄弟たちに殺されたオオナムヂ(オオクニヌシ)を蘇生させている。
 
オオナムチは焼けた大岩の下敷きになったり、大木の切れ目に挟み込まれたりと何度も命を奪われるが、カミムスビは何度も生き返らせている。
 
この例から「むすひ」は、衰えようとする魂を奮い立たせる働きが、生命力の象徴が意味されていると理解できる。
 

玉を回して、糸に撚りをかける
 
火の神、カグツチの別名は「ホムスビ」(火産霊)である。イザナミは火の神カグツチを生んだことで陰部を火傷して亡くなった。
 
怒ったイザナギは我が子であるカグツチを斬り殺す。
 
殺されながら火の神カグツチからは多くの神が派生した。
 
山火事の後に樹木の芽吹きがあり、芽吹いた緑を命の糧とする野鳥や獣を育む例えのようにだ。
 
日本の「むすひ」は、西洋の不死鳥の伝説に似ている。
 
死してなお、生き返る。死してなお、多くの命を生み出す。
 
生命の連続性(時間の流れ)の象徴なのである。
 
連続する命、連続する時間そのものが、つまりは「ムスビ」(むすひ)である。
 

綾竹台
 
『君の名は。』は、時間のムスビと、命の蘇生と、人と人のムスビがテーマであった。
 
そのムスビを取り持ったのが、組紐なのであった。ムスビは「むす」「美」、つまり生まれる美でもある。
 

林茂樹が特注した綾竹台は木目の色にもこだわったという
 
福田隆は静かに丸台で組紐を組んでゆく。その組紐が結ばれたときには、美と人とを結ぶのであろう。その美に魅せられた人と人を結ぶのだろう。人と人が共有して過ごす時間を結ぶのだろう。組紐職人は、なるほど組紐に封じ込められる神の業の演奏家なのかもしれない。
 


 

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