日本の原風景を象徴する茅葺き屋根

 

豊かな農村が育んだ筑波流の茅葺き

 

石岡地区は、ミカンとリンゴがどちらも実る。南限と北限の境界に位置する。

 

「古来から気候が穏やかで、農家の暮らしは豊かでした。家屋や庭を美しく整える気風が育まれて、筑波流と呼ばれる装飾的で緻密な茅葺き屋根を維持する風土が伝えられてきたのです」

 


萩原家の茅葺き屋敷は江戸末期の建立。国の登録有形文化財に指定されている。

 

常陸風土記の丘の酒井芳次係長が、説明を続ける。

 

「屋根の補修では痛んだ茅を取り除きますがすべてを捨てるわけではありません。穂先が傷んでいる茅も揃え直して屋根に戻します。こうすることで新しい材料の消費や廃棄物が抑えられます。先人の知恵は環境負荷が少ないエコライフのヒントが沢山詰まっています」

 

茅葺き屋根は自然のサイクルを守りながら、葺き替えられる。

 

「住人は、農閑期に茅を調達して束ねて保管を繰り返し、5年ほどで貯まった茅を職人の手を借りて、我が家の屋根の葺き替えに使いました。葺き替えは生活習慣として根付いてきたのです」

 


軒先に装飾を施すのが筑波流の茅葺き屋根の特徴

 

では、そもそも茅とは何か。

 

水辺で採れる葦(よし)と、山辺で採れる芒(すすき)が茅である。どちらも茅と呼ぶ。

 

冬が収穫のピーク。農閑期に採集する。1年間の収穫では1軒分が確保できない。

 

葦の自生にしても、2年越し、3年越しの葦では太さが均一にならない。酒井芳次は言う。

 

「刈り取って、焼き畑のように燃やして、翌年の1年ものを待つこともあります」

 


常陸風土記の丘の敷地内にある食事処「曲屋」の茅葺き屋根を補修する渡辺大と江戸達郎

 

葺き替えた茅は、年間に20ミリ程度、短く細くなってゆく。

 

でこぼこに葺くと、低く沈んだ部分に雨が集中して負荷がかかり、雨漏りにつながる。

 

痩せてゆくことを前提に、茅の密度や、屋根の勾配、平行線を計算して葺く。

 

茅葺き屋根の耐久期間は10年~25年。

 

耐久できるように屋根を葺くのが茅手と呼ばれる職人である。

 

すると……と、私は廣山美佐雄と2人の弟子を屋根の上に眺めながら考えた。

 


屋根を葺くのに必要な茅は冬期の数ヶ月しか収穫できない

 

「3人で茅の密度や、屋根の勾配、平行線をどう仕上げるか。意識を共有していないと」

 

茅葺き屋根を葺くことはできない。

 

4人の茅手、5人の茅手と人数が増えるなら、全員が意識と仕上がりのイメージを共有しないと完成には至らない。いや完成したとしても、後にほころびが現れてしまう。

 

廣山美佐雄は、監督として指示するのではない。自ら茅を運び、茅を葺き、茅を切り揃える。

 


常陸風土記の丘の現場を訪れた師匠、廣山美佐雄と歓談する弟子の2人

 

弾き降りの指揮者のようだ。

 

弾き降りとは自らも楽器を演奏しながらオーケストラを指揮することである。

 

単調に見える作業において、廣山美佐雄は細心の気配り、手配りをしている。

 


廣山美佐雄の野バサミは必要最小限の幅しか広げない

 

渡辺大も、江戸達郎も、弟子として仕事を学ぶなどという気楽な立場にはない。補佐役でもない。

 

片側の屋根に葺いた茅を野バサミで切り揃えている渡辺大は、自律しつつ、親方の廣山美佐雄からの刻々と変わる意識を受け取り、読んでいるはずだ。

 

茅葺き屋根の上の三重奏を、冬の曇天を背景に、私は感嘆しながら見上げ続けた。

 


 

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