凍れる旋律のような美が宿る日本刀・刀匠、川崎晶平


 

質実剛健の本質を日本刀作りにみる

 

炭切りは、単調に見えて、刀を打つときの善し悪しを決定づける作業である。
炭は、鉄をわかす(熱する)ための燃料である。
大きさがバラバラの炭では、刀工の思い通りの加熱ができない。

 

この日は、晶平が自ら炭切りの鉈を振るった。

 

藁を燃やす。

 

私は、てっきり種火にするのだと思い込んだ。違った。晶平は藁を燃やしきって灰にした。

 

「真っ黒に炭化させないと駄目なんです。鉄を鍛錬するときのコーティングにするんです」
と、晶平は説明する。炭化させた藁には、硅素が含まれる。ケイ酸である。

 


藁を灰にして、コーティング材としてまぶす

 

次に晶平は、壺に溜められた泥の様子を確かめた。

 

山で採取した赤土と、きぶし粘土が混ぜられた泥である。

 

「硼素の含まれた泥です。つまりホウ酸です」

 

藁と泥を使う方が、化学薬品を使うより、鉄に含まれる不純物の抜けが良いのだという。

 

さらに鉄をわかす際に加熱のムラが起こりにくいように、鉄を包んでくれるのだという。

 

炭化させた藁と泥とで、わかす鉄を包んで炭素量を調整し、刀へと鍛えていくのである。

 

「西欧には、良質な鉄が豊富に存在していました。燃料にも恵まれていました。鉄を型に流し込んで刀剣を製造することができたわけです」

 


これも鉄を鍛える際のコーティング材の泥

 

日本では、鉄は不純物を含んだ未熟な素材であり、燃料も炭がメインだった。

 

「むしろ、そうした条件こそに日本刀が鍛錬されて製造される風土が育まれたのです」

 

鉄をわかし、わかした鉄を延ばしては、折りたたみ、またわかし、延ばしては折りたたむ。

 

気の遠くなるような手間をかけて、焼けた鉄を折り重ね、不純物や炭素を叩き出して、密着させ、二尺二寸五分(68.2㎝)を標準的な長さとした日本刀ができあがる。

 

粘り気と柔軟さがありながら、剛たる日本刀へと姿を現していく。

 


ふいごで空気を送り込み炎の燃焼を調節する

 

刀鍛治、つまり刀工は、恵まれない素材を元にしていたからこそ、いにしえの時代から精緻な技術を施すことで、日本刀を作り続けてきたのだとも言える。

 

技術がすべてなのだ。その技術を晶平の技に、私はいま見ているのだと思った。

 

もっとも、技術は「匠の技」などと単純に言い切ることができる人知の範囲にはないと、この取材を通して思い知らされることになるのだが。

 


鉄は叩くのではなく、鍛える

 

晶平が、円座に座る。藁をきっちりと編んで作った座(クッション)だ。

 

炉に炭火がくべられる。ザッと音を立てて、しかし静かに鉄塊が炉に入れられる。

 

左腕に渾身の力を込めて、ふいごを引き、また押す。

 

風が炉に送られて、炭の燃焼温度がどんどんと高まっていく。

 

単調にふいごを動かすことはない。ときに素早く、ときにゆっくりと、ときに短く、ときに長く……。炎の勢いを左腕の力で自在に操る。いや、左腕の力だけではなかった。

 

私は気がついた。晶平は、ふいごを引くときには、息を吸い、ふいごを押すときには、息を吐き出している。

 

左腕の筋肉が隆々と目立つので、そこに気を取られがちだが、晶平は、呼吸を丹田(腹部のやや下)に集め、全身の力で、炎を操っているのだ。

 


鉄塊を焼いて、叩いて、鍛えたのちに短冊形に整える

 

灼熱に焼けた鉄塊が炉から取り出される。藁の灰をまぶされ、壺の中の泥をかけられ、それから鎚で鉄は叩かれる。ハラリと灰が真っ赤な鉄の表面に現れては落ちる。不純物だ。

 

鎚を離れた鉄は、晶平が振り下ろすハンマーに、また叩かれる。

 

水をかけてから振り下ろすハンマーに、焼けた鉄は水蒸気爆発を起こして、噴火のような湯気を上げる。このときにも、不純物を追い出している。

 


短冊の上に鉄塊を交互に組み合わせて積む

 

「よしっ」

 

と晶平は言う。自分を鼓舞しているのだと思った。あるいは確認の独り言だと思った。

 

焼けた鉄塊を水桶にジュッと浸けたときに現れたのは、チョコバーのような鉄板だった。

 

鉄板に切れ目が並んでいる。短冊という行程だそうだ。

 

短冊には、横一線に柾目模様が浮き出ている。

 

晶平は切れ目に沿って短冊状態の鉄板を割った。それを交互に積み上げた。

 

「縦目、横目と積み上げて、鍛錬することで、粘り強い刀に仕上げることができるんです」

 

この行程を経て、できあがった鉄板に、さらに複雑に鉄片を積み上げて、これを和紙で包む。藁灰と壺の中の泥をまぶして、また炎にくべる。

 


鎚打つ。支えとなるのは濡らした藁箒

 

炎から取り出した鉄塊を、立方体になるまで、ハンマーで鍛える。

 

こうした繰り返しを眺めていると、円座はあらゆる作業のターミナルである。

 

円座は場であり、司令塔の位置であり、刀工の座るべき本拠地になっている

無駄な動きは存在しない。無駄な動きがなければ、無駄な作業もないのだ。

 


 

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