日本のものづくりを貫くシグマのカメラとレンズ


 

職人集団はひけらかすことをしない

 

レンズの辺縁は黒く塗装される。それはどこのメーカーでも同じだ。レンズで捉えた光をレンズ外に拡散することなくカメラのセンサーに異常なく届けるためである。

 

レンズの側面を黒く塗る工程も、シグマ会津工場では手作業中心である。

 


レンズの側面を黒く塗る

 

0.2ミリ、はみ出しも、塗りむらも不可。

 

黒色の樹脂塗料をつけた筆を、レンズの辺縁の上、下、中間へと置く。塗るというよりも筆を置く、あるいは触れるという表現の方が正しいだろう。14人の女性工員が職人技を発揮する。

 

「自動化も一部導入しているんです。しかし彼女たちの手の方が、はるかに早いし、ミスも少ないんです。」

 

席を代わることはない。ひとり一人のステップの高さまでが決まっている。筆をレンズに当てる際の角度までが決まっているからだ。

 

60代、40代のベテランに交じって20代の女性が2名いるという。

 

 

「わざわざ技術の伝承などといわなくても、会津の人たちは、覚えて当然、こなして当然という姿勢で、どの工程の技術も受け継いでいくんです」

 

神奈川県川崎市の本社で広報を務める桑山輝明が言う。彼は会津出身ではない。
しかし長く会津工場の工員たちと触れ合ってきて、いまさらのように会津の人たちの職人気質を概評するのだ。

 

私もそう思う。シグマ会津工場に勤める人たちは、自覚無き職人集団なのではないかと。
仮に自覚があってもその技能、技術をあえて誇ることをしない職人集団なのではないかと。
シグマの現社長、山木和人を神奈川県川崎市の本社に訪ねた。

 


山木和人社長を神奈川県の本社に訪ねた

 

「経営を拡大発展させる企業は少なくありませんが、私たちはそこを目指しません」

 

安価な人件費を求めて、生産部門を海外に置く。
するといったん決めた生産ラインの、一定水準の品質以上のものは作らなくなる。

 

新製品を開発するにしても、試作品の設計図を海外に渡して、予定通りのレベルをクリアできる職人がいないのが実情だ。

 

シグマの場合には、川崎の本社で開発者が設計した試作品を、会津工場の職人集団が、予定通りのレベルで仕上げてくる。

 

100パーセント、メイドインジャパンの高いクオリティー。
そのための親密なリレーションが、シグマの財産だという。

 


親密なリレーションこそシグマの財産だと語る山木和人社長

 

2017年、シグマは映像用のシネレンズを発売した。
4年ほどの歳月をかけて開発したのだという。

 

NHKの朝の連続ドラマの撮影に、そのレンズが使われた。

 

「会津工場の社員食堂に、ポスターを掲示して、皆さんに見てもらいました」

 

と山木和人は言う。モチベーションを高めるのも社長の使命だと考えているらしい。

 

「たしかにホームランか三振かの、どちらかしか撮れないカメラだというご指摘は否定しません。それだけ精度が高いカメラを作っているんです。唯一無二のメイドインジャパンを目指す。父である山木道広が定めた路線を継承しています」

 

しかし継承とは、攻めの姿勢も伴わなければならない。

 


立ち位置の高さ調整をして、作業に臨む。

 

「最新の機械も導入して製品作りをしています。最新の機械をもってしても、手作業の方が精度が高く、効率が良い部門があります。だから手作業なのであって、ノスタルジックな古き良き伝統に執着しているわけではないんです」

 

改良の試作品作りのレスポンスの良さ。小さなネジ1本まで会津工場で作る。機械や道具の故障を直す、治具まで会津工場内で作る。事細かい製造のすべてを掌握している。

 

海外に生産拠点を移設してまでの、拡大発展や大量生産には手を出さない。

 

その理由はメイドインジャパンの、メイドイン会津の、高いクオリティーを絶対に譲らない信念を持っているからだと知らされた気がした。

 

 

取材・文章/浦山 明俊
撮影/川口 宗道

 


 

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