悟られない義手、義指・平岡製作所


 

アンテナを常に張り続ける

 

可動式義手と装飾義手は、別物として分かれたままなのか。
平岡敬悟は、未来の可能性を見据えている。

 

「筋電義手の発展にも興味はありますが、筋肉圧で指が動く義手の開発を進めている義肢装具士の仲間がいます。筋電義手よりも、安く提供できることを目指しています」

 

可動式義手の進化は、発展途上とはいえ、いつの日にか、いっきに理想の技術は実現されるだろう。

 


本物と見分けがつかない義手

 

携帯電話が現れて、備え付け電話が過去のものとなったように。スマートフォンが現れて、ガラケー携帯電話が過去のものとなったように。技術の進化は、予測を超えたスピードで、ある日突然に私たちの前に現れる。

 

手の骨格や筋肉や神経や触感のフィードバックを実現して、5本の指を自由自在に、自分の意思で動かせる義手は、ある日突然に私たちの前に現れるかもしれない。高額な製作費が安価に実現される日も遠くないかもしれない。

 

その夢が実現したときに、平岡敬悟の作る装飾義手は、可動式義手と融合して、依頼者の夢を叶えるかもしれない。

 

そのためには、可動式の義手にかぶせられる装飾義手の開発を見据えていなければならない。

 


完成した義耳

 

ひとつの技能を極めた職人は、自分の技能に埋没してはいけない。時代の変化に、自分の技能を合わせるためには、情報収集を常に心がける姿勢が必要だ。

 

「毎週、さいたま市岩槻区にある人間科学総合大学に通って、義肢装具士を目指す若者たちに講義をしています」

 

教えることは、学ぶことにつながる。

 

他人に講義をして、自分の理解がより深まる経験は誰にもあるのではないだろうか。

 

この格例は、次世代がどのような義肢装具をイメージしているかの情報収集になる。

 

「埼玉県戸田市にある、子どもの装具を作るのが得意な義肢装具製作所には、いまでも通って手伝っています」

 

装飾義手、義指を作る日々だけではないのである。

 


すべてはフルオーダーメイドだ

 

平岡敬悟は、本物らしい人体に見せる職人技についてカモフラージュの技法を語った。

 

「精巧に、本物にそっくりに作ることもありますが、ときには本人の肌の色より、ほんのわずかだけ薄い色に作ることがあります」

 

とくに義耳にはこの技法は効果的だという。

 

「義手や義耳への他人からの注視を逸らせることができるんです。街で白っぽい犬には視線が集まらないけれど、黒っぽい犬には、あれっ、とふと視線を向けてしまうことはありませんか。黒や赤の色は人間の視線を無意識に集めるんです」

 

つまり義手や義耳など左右対称に存在する人体パーツの欠損した側を薄い色に仕上げることで、残存している本物の人体パーツの側に視線を集めることができる。

 

すると義手や義耳には、注視が集まらないのだという。

 

「精巧に作るだけでは駄目なときもあるんですよ。視線を集めない義手、義耳。いっぽうで義指などは、本人の肌の色を究極まで再現します。違和感があっては義指が目立ちます」

 


基本5色の染料から数百種類の色彩を生み出す

 

平岡敬悟が作り上げる義手、義指、その他の人体パーツは、装着している本人だけが、感動を伴ってその精緻な職人技を知っている。

 

そして他人からは、その精巧さ、緻密さは決して知られることがない職人技なのである。

 

 

取材・文章/浦山 明俊
撮影/川口 宗道
編集/吉野 健一

 


 

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