デザイナーと職人が織りなす喫煙具

 

「考える人」「作る人」「売る人」

 

浦山:そのパネルのバイクは井上さんがデザインしたのですか。

 

井上:スズキ・シュートですね。
大学を出てデザイン会社に勤めて、会社を辞めて独立したときに手がけたものです。

 

浦山:そのヤマハのRD125もそうですか。

 

井上:そうです。オートバイって、デザインしてから忘れた頃に完成品になるんですよ。
私がデザインしたバイクたちが街中を走っている。
その感動は強烈でした。
その感動があったから、今でもデザイナーを続けていられるんです。

 


デザイナーは「考える人」という職人ですと井上頌夫

 

浦山:愛情を注ぎ込んだ製品が多くの人に使われる、デザイナーの醍醐味ですね。

 

井上:でも、私は自分がデザインした製品はなるべく持たないようにしています。
ゲーテによると「愛は純粋」ですから。

 

浦山:愛し返してもらうこと望まない。それが純粋な愛だと。

 

井上:そうです。過去の仕事に執着していると、新しいデザインができませんからね。
ではデザインって、どのようにアイデアが出てくるのか。
考えても、考えても出てこない。面白いもので、本質的なデザインが生まれたときって、製品が売れますね。

 


かつてデザインしたスズキのバイクのデザイン画を手に井上頌夫が語る

 

浦山:優れた職人さんと同じですね。
ああでもない、こうでもないと仕事をしている人は優れた製品を作れません。
ものを作っているときに余計なことを考えている人は本質的な職人ではないですね。

 

井上:本当に優れた職人さんって、ルーティンワークが身体にしみこんでいる人でしょうね。淡々として延々と同じ作業を続けられる人。

 

浦山:でも、その領域にたどり着くまでは……。

 

井上:ああでもない、こうでもないと悩み抜いて、自分と格闘しなければならない。

 

浦山:南部鉄器の葉巻灰皿も、理容バサミの技術から作られたシガーカッターも、とてもジャポニズムを感じるのですが。日本を意識したのでしょうか。

 

井上:いや、私のデザイン画は欧米的だったと思います。
しかし職人さんの手にかかると、ジャポニズムな完成品になるんです。
伝統技能の本質なんじゃないですかね。

 

浦山:どちらもヨーロッパで高い評価を受けていますよね。

 

井上:意外と日本人が日本の素晴らしさに気がついてくれていないかもしれません。

 


実際のデザインの作業を見つめる浦山明俊

 

浦山:「考える人」がいて「作る人=職人」がいて「売る人」がいる。
就職を目前にして、企業に入社して売る人になることはイメージできるし、門戸を叩きやすい。
しかし「作る人」になる自分がイメージできないし、まして「考える人」って、どうしたらなれるのか、門戸にすらたどり着けない人は多いのではないかと思います。

 

井上:私は教鞭をとっているんですが、よく学生に「駅から学校に来るまでの5分間の道のりにデザインのヒントは山ほどある」って教えるんですよ。

 

浦山:私も外出のときにはスマホを見ません。
街のあちらこちらに、電車内の乗客の服装やそぶりに「書くことのヒント」が山盛りですから。

 

井上:今の私たちの会話に「そうか」と思えたら「作る人=職人」や「考える人」への門が開けるんじゃないですかね。

 


数多くデザインしたなかにジッポーのライターがある

 

こうして、2時間の対談を終えた私たち二人は、シガーバーへと移動した。

 

共通点は葉巻好きである以前に、二人とも酒が飲めないということだった。

 

私たち二人は、ひとり掛けの深いソファーの置かれたテーブル席で互いに好きな銘柄の葉巻を吸った。会話を楽しんだ。

 

別のテーブルでは祖母らしき女性の誕生日を、細長いろうそくを灯したケーキで祝う家族の姿があった。
店員と家族の「ハッピーバースデー」の歌声に、私たち二人は、振り返ってささやかな拍手を送った。

 

カウンター席では、誰もが静かに葉巻をくゆらせている。

 

互いに会話は交わさない。静かに心と体を葉巻で休ませている。

 

饗宴と静寂が同じ空間に共存して、誰の時間も邪魔しない。
本来のシガータイムは、そうしたものである。

 

そうしたものだからこそ、上質な喫煙具が必要なのである。

 

こうした時間に責任を持つ。

 

デザイナーは、こうした時間を過ごすためにはどういう道具が必要かを考える。

 

デザインされた道具を作る職人もまた(もしかしたら葉巻を吸わないのかも知れないが)
どういう道具を求められているのかをイマジネーションしながら、ふさわしい道具に作り上げ、仕上げていく。デザイナーも使う人に責任を持ち、職人も使う人に責任を持つ。

 

「こう作れと言われたから、それらしい格好のものを作っておけば構わないのだろう」
と職人は考えないのである。

 

それがデザイナーと職人とのコラボレーションなのだと思う。

 


写真⑤

 

取材・文章/浦山 明俊
撮影/川口 宗道

 


 

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