デザイナーと職人が織りなす喫煙具

 

デザインは自然から学べ

 

東京・六本木の井上頌夫のオフィスで、私たちは対談した。

 

浦山:シガーカッターとシガー灰皿を、なぜデザインするに至ったんですか。

 

井上:20年以上、葉巻を吸ってきて納得できる灰皿とカッターがなかったからです。

 

浦山:確かに、葉巻の灰皿はどんな長さのどんな太さにも対応できるように、大皿型が当たり前で、カッターも葉巻の太さに応じて使い分けるものと思っていました。

 


水をすくって飲む手の形は楕円。灰皿も自然に倣って楕円
 

井上:男の世界ですよね。しかし女性も葉巻を吸います。
雄々しいばかりが葉巻の道具というのは、違和感があったんです。

 

浦山:女性らしいフォルムで楕円形にたどり着いたんですか。

 

井上:うーん、それもあるけれど“自然に学べ”ですよ。
デザインの基本は丸、四角、三角なんです。
しかし原始の形は楕円なんですよ。
太陽系の惑星の軌道は楕円でしょう。人類が初めて水をすくって飲んだときの両手を合わせた形って楕円だったはずです。
葉巻はタバコ葉が100パーセントの自然(紙巻きタバコには化合物や燃焼火薬が混ぜられている)のものですから、自然回帰したデザインにしようと思いました。

 


当初の葉巻灰皿のデザイン画を持つ井上頌夫
 

浦山:では、灰皿が楕円深皿になったのは、水をすくって飲む人間の両手のひらから着想したわけですか。

 

井上:それと船底ですかね。
ドッグは船の居場所。葉巻の居場所もドッグです。

 

浦山:カッターには「刀」と刻印がありますね。

 

井上:日本の理容バサミは世界に通用する切れ味ですから。

 

浦山:台座が楕円形ですね。デザインの統一ですか。

 

井上:カッターが刀だとしたら、台座は刀掛けですよ。
ハサミって精密機械なんです。
あるシガーバーにいったら「お客さんから刃先が当たるようになっちゃって修理してくれって言われているんですよ」って。
原因は明らかに落っことしているんですよね。
数ミクロンでも狂ったら刃が当たるんですよ。

 


ハサミは精密機械だと「刀」を手に取る井上頌夫

 

浦山:名のあるシガーバーでも、シガーカッターを鉛筆立てに突っ込んでいますよね。

 

井上:それが嫌で避けたいから台を考えたんですよ。
このアクリルの台はあくまでもベース基地でして、使ったらここに戻す。そうすると鋏の機能・性能はずっと保たれる。同時にデザインでもあるわけです。

 

浦山:ストレスなくカットできるように、支点力点作用点を計算してあるんですか。

 

井上:それより28アール(カーブの曲がり具合はRで示される)の刃物を研ぐ砥石がなくて、まず砥石を作るのに半年かかりました。
すべてがゼロベース。職人さんが「こんなの作るのは伝統的にない。無理だよ」というのを、何とかお願いして作ってもらったんです。
デザインから始まる、もの作りってそうなんですよ。

 


「刀」は専用のハサミ置きに収納できるようにデザインされている

 

浦山:伝統的な技術を持つ職人には、ゼロベースからの発想はないということですか。

 

井上:ほとんどないでしょうね。

 


 

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