守る伝統切り開く未来常滑焼


 

すでにある概念を打ち破る職人の魂

 

常滑焼が、平安時代から現代まで命脈を保ってきた理由は、進取の気象ではないか。そう思う。

 

健全な国家には、保守と革新の同席がある。

 

継続と発展は、こうした対極の思想を尊重し合う環境から生まれる。

 

保守だけではだめで、革新ばかりを唱えてもまただめなのだ。

 

そのどちらかに傾倒した国家が、つまり保守と革新のバランスを失った国家が閉塞的で危険な国家となってしまっているのを見れば、バランスの大切さが分かるだろう。

 

伝え守らなければならないものは、技能に安住していては衰退するのである。

 


巻練りをする小西洋平

 

保守と革新。
伝承と進取。
静と動。

 

陶芸家、小西洋平、76歳。長年にわたり伝統的な常滑焼の急須を作陶してきた。

 

2010年に“急須はもうやめだ”と言ったその日から、仏塔を、マスクを、オブジェを、ねじれた壺を、花を活けられない巨大な花瓶を、タイムカプセルをと自由気ままに作陶し始めた。

 

2013年に、急須作りに返り咲いた。しかしその急須は、小西洋平の遊び心そのものが形になったものだった。

 

1日に1個だけ。抽象、具象、文字、模様を彫り込んだ、形状や色彩が自由な急須を作り始めたのである。


小西洋平の作る急須はバラエティーに富んでいる

 

小西洋平を訪ねると、途端に土を練り始めた。

 

巻き練りとも菊練りとも呼ばれる作陶の基礎で、すべての焼き物の土台となる粘土練りである。

 

巻き込むように練る。練られた土塊には菊の花の文様が現れる。巻き練り、菊練りの由縁である。

 


ロクロ作業は素早い

 

ロクロを回す。あっという間の早業で、まずは急須を作った。

 

小西洋平は、陽気にずっとしゃべり続ける。

 

「指が財産だでね。何の道具も必要ない。親からもらった10本の指がありゃ、もう道具をもっとるようなもんだ」

 

急須の胴を作っているらしい。

 

見逃すほどの早業が繰り出された。小指の先で、急須の胴に、模様をつけてゆく。

 


左 小指の先端で、蓋を作る
右 小指の先端で、急須の胴に模様を施す

 

「小指は財産。親からもらったこの指で、どんな模様でも作れるでよ」

 

小指の先の技は、急須の蓋を作っているときにも繰り出された。糸目の模様がみるみるうちに刻まれていく。

 

こうして完成した急須を、小西洋平は、あっという間にちぎって壊してみせた。

 


細い注ぎ口の模様も小指の先端で刻む

 

「紙みたいだやね。ペンペラだいね。常滑の土は粘性があるのが特徴だいね」

 

尾張弁というのだろうか。常滑の強烈ななまり言葉で、ちぎった急須を広げてみせる。

 

「粘り気があるから、薄く作れる。急須作りが上手な人は、みんなギリギリまで薄く作るもん、ほれ」

 

清水北條の工房で見せられた職人技と同じである。

 

しかし工房に陳列されている急須は、六角形のものあり、細長いものあり、平たく低いものもある。

 

金彩、銀彩のものもある。急須の表面に、篆刻文字が刻まれたものもある。小西洋平は平然と言う。

 

「何で、そんなひねくれた急須を作るかと尋ねる人がおるが、別にひねくれとりゃせんで。日本茶も中国茶も紅茶も、きちんと淹れられるように作ってあるで」

 

またロクロが回る。土をひねり上げていく。どこまで首が伸びるのか。花瓶だろうか。

 

質問をする私にはお構いなしに、小西洋平はうれしそうに花瓶らしきものの首を伸ばしていく。

 

そしてまた手のひらを使って、花瓶らしきものの胴に筋模様を施した。

 

やはり花瓶だと私が思った次の瞬間、小西洋平は花瓶の首をグニャリと曲げて、ねじった。

 

これはまた花を活けられない花瓶を作ったのか。

 


花瓶らしきもの。この後に首をひねりオブジェに変えてしまった

 

呆気にとられていると、小西洋平は花瓶の胴に指先で穴を空け、そこに花を活けられる珍妙なオブジェを作って見せた。

 

「これが芸術だ、これがアートだという人もおるけれどね。それは違う。いい加減なことをすれば芸術だなんて、嘘だいね。基本とか基礎とかを何十年も積み上げて、それで満足できなくなった先にあるものが本当の芸術だいね」

 

小西洋平の饒舌は止まらない。

 

「ただし、満足できなくなったといって勝手に考え出したらいかん。感性は磨いておかんといかん」

 

その感性を磨くために、小西洋平はオブジェを作り続けた3年間があったのだろうか。

 

私が質問しても、小西洋平はまったく答える気などないのであった。

 


 

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