守る伝統切り開く未来常滑焼


 

自然に、あくまでも自然に陶器を作る

 

私は工房に並べられている、清水北條の急須や湯飲みについて尋ねた。

 

よく知る常滑焼の朱色より趣が深い。

 

この色と質感は、どのようにして焼き上げられたのだろうか。

 


自然の土を描写したかのような急須

 

「ロクロの回転が遅いほうが、私の手の痕跡が焼き物の外側にも内側にも現れやすいんです。微妙なおうとつが、見た目の質感として表現されます」

 

その代わりに月間に100個を作るのが限度だそうだ。

 

微妙なおうとつは、急須に茶を入れてお湯を注いだときの茶葉の対流にも影響を与える。

 

単純に、茶葉が対流するのではなく、内側のざらつきに茶葉が引っかかって、成分の抽出の時間を長くして濃くする。

 

美味い茶を急須の内側の構造が、引き出してくれるのである。

 


玉露専用の湯飲み茶碗

 

採集する土にも、この質感の理由があるという。

 

「かつては、朱なら朱色に、白なら白色に仕上げようと作陶していたんですが、土を掘っていましたらね、土の断層の色の帯がきれいだなと思いまして、この自然の土の印象を陶器に表現できないかと決意して、ロクロ引きにも、窯で焼き上げる際にも、試行錯誤と工夫を繰り返して、私の作風が築かれてきたんです。それが30年前のことですかね」

 

言いながら清水北條は玉露の二煎めを、注いでくれる。

 

お湯の温度は50度。

 

これが最上の二煎めになる。

 

朱色の茶器でも、色彩が深いのはどのような技術によって実現されるのか。

 

「窯の中での、焼き締めです。土に鉄分が含まれていますが、還元焼成を施します。つまり酸欠状態にするのです」

 

赤みは渋い赤茶色に仕上がる。

 

しかしわざとらしさがない。

 

外から内部が見えない窯の火加減を調整するのには、熟練の技術と、経験が必要なのであろう。

 



上 急須の内側の茶こしの穴も手で空ける
下 海草を利用した藻がけ焼きの急須

 

安価な急須の内側には金属のメッシュ茶こしが施されているが、清水北條の急須には、そのようなものはない。

 

茶こしの網目の穴は、数ミリ。

 

穴と穴の間隔も数ミリである。しっぽと呼ぶ鉄器を使って空ける。

 

平たくは仕上げず、半球体に穴が施されている。

 

球体であれば、開いた茶葉が網目に引っかかることなく、お湯を注ぐ動作とともに、網目の外へと自然と流れる仕組みになっているのだ。

 

機械で空けることはなく、間隔を計算しながら、ひとつひとつ手仕事で空けられている。

 


清水北條の作品展示室を背景に

 

工房に並べられた茶器のなかでも、独特の赤い糸模様が表面に美しい急須を見つけた。

 

「藻がけ焼といいます。江戸時代の天保(1830年代)の頃から常滑で始まった技法です」

 

海から甘藻を取ってきて、これをほどき、焼き物の表面にかぶせて窯で焼く。

 

甘藻は、正確には胞子で増える藻類ではなく、種子で増える海洋植物である。

 

甘藻は焼かれて姿を消すが、塩分、その他の成分が焼き物の表面に模様をつけるのである。

 

「海が近い常滑だからこそ、始まった技法なのでしょうね」

 

 

ひとつひとつ表情が異なる藻がけ焼の急須に見とれながら、私は、

 

「どれも、傑作ですね」

 

とため息を漏らした。清水北條は、微笑みながら、

 

「いや、上手くできたと思う茶器はなかなか焼き上がりません」

 

と玉露を口に運ぶ。私の目から見たら、実際にどの茶器も傑作だ。謙遜の言葉だと思う私に、

 

「極められるものなら、極めてみたいと思いながら、土を造形し、窯に火を入れるんですがねぇ。すべてのことを、この手で極めてみたいですねぇ」

 

と静かに返答するだけだった。
工房に流れる音楽は、いつしかシベリウスの交響曲に代わっていた。

 


 

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