ワイシャツという言葉は
ここから始まった・大和屋シャツ店


 

繊細な糸使いと風をまとうよう着心地

 

工場を訪ねてから3週間後に仕上がったシャツを銀座の大和屋シャツ店に受け取りに出向いた。

 


完成した筆者がオーダーしたシャツ。コンパクトで軽い着心地を実現

 

グラッディ&ルビネッティの生地。縦170番手、横120番手。手触りはなめらかで、レギュラーカラーの両端に薄い芯地が入っているので、ネクタイを締めても様になるし、開衿でもへたることがない。

 

袖はミラノカフス。シャルベのミラノカフスは袖口を90度で折り返しているが、大和屋シャツ店のミラノカフスは110度くらいで折り返している。

 

ボタン部分の袖口が覆い被さる外側のカフスにしっかりと隠れる。細部に細心の注意を払う職人技がここに見られる。

 


シャツには大和屋シャツ店のトレードマークが縫いつけられている

 

着てみた。コンパクトなシルエットで、やや柔らかい。生地が高番手であることにも起因するのだろうが、肩口、背ダーツ、前身頃、腕周りのどこにも余計な圧力がかからない。

 

これまでは50代を越えた洒落紳士がオーダーシャツを作るケースが多かった。しかし近年は20~30代が大和屋シャツ店でオーダーするという。石川成実が言う。

 

「戦後の日本は、大量生産、大量消費の社会になりました。シャツも安いものを買って、1年ほど着たら捨てる。そうした消費社会を否定はしません。しかし、日本画にしても歌舞伎、落語、相撲、能にしても伝統的でありながら新鮮に受け取れる文化が日本には息づいている。良い製品を大切にしながら長く使おうという価値観を日本文化から学んだ若者世代が現れてきた証拠かもしれませんよ」

 

神は細部に宿る。見えないところにこそ手を抜かない。

 

日本の職人に共通する何かがある。自然を征服しようとするのではなく、自然と溶け込もうとする何かをだ。

 

 

春の訪れを知らせる桜の開花した4月8日。満開の桜でにぎわう上野恩賜公園にいた。

 

春の突風が吹いた。桜花が花びらを散らした。

 

多くの花見客が突風に背を向け、ある者は、コートの背を風に向けた。ある者は風にシャツの襟をたなびかせて手で押さえていた。

 


日本最古の伝統が大和屋シャツ店の誇りだ

 

私は大和屋シャツ店のシャツを着ていた。突風に背を向けることはしなかった。

 

シャツは突風に乱されることはなく、ネクタイも緩まなかった。

 

ただ風だけが吹き抜けていった

 

「ああ、風に乱れてしまうシャツを着ているのではなく、風そのものを私は着ているんだ」

 

突風に右往左往する花見客のなかを、私は晴れやかな気分で上野の街へと歩いて行った。

 

 

取材・文章/浦山 明俊
撮影/川口 宗道

 


 

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