ワイシャツという言葉は
ここから始まった・大和屋シャツ店


 

職人技は採寸に発揮される

 

採寸をしながら菱沼三彦は会話を忘れない。ロンドンの理髪店での対応のようだ。

 


筆者の採寸に会話を欠かさない菱沼三彦店長

 

「そうですね、最近の傾向ですか?5、6年前から女性がシャツを作りに来店なさるようになりましたね」

 

「ブラウスではなく、シャツですか」

 

と私が尋ねると、

 

「襟が寝てしまうブラウスではなくて、開衿でも襟がしっかり立つシャツが欲しいと女性の皆さんはおっしゃいます」

 

女性の社会進出が円熟期を迎えて、要職に就く女性がスーツにシャツを合わせるようになったことの表れだろうか、と私が想像を巡らせるうちに菱沼三彦による採寸は済んだ。

 


大和屋シャツ店6代目石川成実社長

 

6代目社長の石川成実が日本のシャツ事情について、こう語りかけてきた。

 

「6、7年前から日本では国を挙げてクールビズを推進してきました」

 

クールビズとは、高温多湿の日本の夏に、ネクタイを廃し、スーツの上着も着るのをやめて、涼しく仕事をしようという服飾運動である。シャツを開衿してビジネスを交わしても、それを失礼と考えない。それが日本のクールビズである。

 


D&Jアンダーソンの生地。上から170番手、200番手、240番手。イギリスでは完売状態でも大和屋シャツ店には、在庫がある。

 

「開衿のシャツでも、襟がへたれないボタンダウンやスナップボタンの襟を注文するお客様が増えました。おそらくネクタイを締めないし、上着も着ないのでしょうね」

 

シャツ一枚で仕事相手に会えるビジネスシャツをオーダーする人が増えているそうだ。

 


大和屋シャツ店から筆者が薦められた生地は10年程前から頭角を現してきたグラッディ&ルビネッティだった。1着分の生地を裁断する菱沼三彦店長

 

かつては下着として、他人の前でシャツ一枚になるのは相手への侮辱か恥知らずと認識されていた。シャツ一枚で正装と見なされる時代を迎えている日本では、シャツが上半身の服飾として表舞台に躍り出たようで興味深い。

 

と考えを巡らせていたら、菱沼三彦が私に声をかけた。

 

「さて、浦山さん。もう一度、採寸させてください」

 

菱沼三彦は私が石川成実と会話しているうちに、私の身体の動きを見ていたのであった。

 

「会話などで身体がリラックスすると、背骨のS字カーブが微妙に変化します。張っていた肩の線は下がり気味になり、まっすぐに伸ばしていた腕も緩やかにひじが緩みます」

 

このタイミングで、再採寸すると、身体を動かしたときにシャツが自然と身体の動きに従った形に仕上げることができるという。

 

裁断と縫製をするのは工場の職人なのだが、職人技は店舗の採寸から始まっていたのだ。

 


採寸のディテールを書き込む

 

肩幅、首回り、袖丈などを書き込む採寸表には、「後ろ襟かぶせ深く」「はと胸」「丸胴」「前身幅広く」「反り身」「首根太く」「短首」などの私の身体的特徴までが記録されていた。

 

メジャーの数値にばかり頼るのではなく、面談しながらこちらの身体的特徴まで見抜く目を持った職人による採寸なのだ。

 


 

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