エボナイト万年筆 – 笑暮屋


 
エボナイトは、天然ゴムと硫黄を混ぜ合わせ、独自の加熱処理によって生まれる合成樹脂だ。
クラリネットやサキソフォンのマウスピースでおなじみだろう。
プラスチックでは、あの吹奏は生まれない。
余計な振動は、天然ゴム由来の柔軟さが吸収する。
それでいて硬質であるから経年変化で痩せることがない。
 
それほど優秀な素材でありながら、加工の難しさから、現在では加工の容易な他の合成樹脂に取って代わられている。
そう、エボナイトを加工するには熟練の技術が必要なのである。
エボナイトを作る工場は、ドイツに2社、日本に1社が残るだけだ。
日本の1社とは日興エボナイトである。
その加工の難しいエボナイトをあえて選び、万年筆を手作りしているのが笑暮屋なのだ。
遠藤智久社長は言う。
「我が社のエボナイトは、万年筆、楽器、喫煙具メーカーから、磨いたときのツヤが美しい、気泡がない、異物が入っていないと評価をいただいています」
 
加熱処理されエボナイトに
加熱処理されエボナイトに
 
笑暮屋の万年筆は、カスタムメイドが基本である。
同じモデルでも、長さと太さをあえて変える。
人の手の大きさが異なるからである。
手の大きさだけではない。
筆圧はペン先を紙に置く際の圧力だ。これは人それぞれに異なる。
筆記角度も人それぞれに異なる。
直立に近く立てて筆致する人か、角度を傾けて、寝かせて筆致する人か。
万年筆の軸の長さや、太さ、ペン先の大きさが、こうした個人差の筆致に影響する。
 
たとえば、宝珠というモデルにはL、M、Sサイズが用意されている。
Lサイズ―全長142㎜/キャップを後ろにつけた長さ165㎜/軸径15㎜
Mサイズ―全長137㎜/キャップを後ろにつけた長さ159.5㎜/軸径13.5㎜
Sサイズ―全長132㎜/キャップを後ろにつけた長さ154㎜/軸径12㎜
 
気がついただろうか。Lサイズの全長とMサイズの全長では5ミリの差しかない。
Mサイズの軸径とSサイズの軸径の差は、わずか1.5㎜なのだ。
ところが、このわずかな差が、万年筆を「書きやすい筆記具」と感じられるか否かの、勝負の分かれ目になるのである。
 
強く握って書く人には、Lサイズのような太くて長い万年筆は向かないかもしれない。
把持を続けると、手が疲れてしまう。
弱く握る人には、Lサイズの万年筆は執筆の従順な伴侶に育ってくれる可能性が高い。
強く握る人には、Sサイズの万年筆が合うかもしれない。
長さが短いことで、後ろにかかる重心が軽減され、長時間を書き続けられる。
がしかし、長時間、細い軸を握り続けると、手首の関節や肘に、痛みが発症することを私は経験している。
かなり強く把持し、長時間の筆記をするにはMサイズが合うかもしれない。
 
サイズ選択はまだ結論には至らない。
ペン軸のどこを握るのか。
紙に押しつけるように書くのか、紙から浮かせるようにして書くのか。
握る位置と筆圧によっても、最適なサイズの選択に影響する。
ペン軸の中心あたりを握る人には、Lサイズのような長い万年筆が適合する。
ペン軸の先端近くを握る人には、Mサイズか、Sサイズが適合する。
こうしたユーザーの生来に持っている筆記癖を考慮して、笑暮屋の万年筆はカスタムオーダーで製造される。
 
エボナイトの加工
エボナイトの加工
 
どのサイズが自分には適合するのか。
どのペン先が自分には適合するのか。
インクフロー(インクがペン先から流れ出る量)を開放するのか、絞るべきか。
迷ってしまうなら、笑暮屋のサイトを訪ねるとよい。
身長160センチの女性が、実際に万年筆を手にしたシミュレーション画像を見ながら、自分に適した万年筆はどれかを判断できるチャートがある。
 
それでも判断ができないときは、笑暮屋に連絡を入れるとよい。
笑暮屋の社長である、空手の達人、遠藤智久社長があなたの相談に答えてくれるだろう。
あるいは、笑暮屋のスタッフが、あなたにアドバイスをしてくれるだろう。
 
金崎徳稔は、若き万年筆職人である。1978年4月生まれ、今年で37歳になる。
友人、知人の万年筆を預かり修理をしているうちに、世界の名だたる万年筆の構造を熟知してしまった。彼に修理できない万年筆はなかった。
モンブラン、ペリカン、パーカー、ウォーターマン、クロス、カランダッシュ、オマス、デルタ、アウロラ、カルティエ、シェーファー、ラミー、STデュポン、ファーバーカステル、モンテグラッパ、モンテベルデ、マーレーン、ダンヒル、コンウェイスチュワート、パイロット、プラチナ、セーラー……、
金崎が修理した万年筆は列挙しきれない。
 
金崎はアマチュアから脱するために熟練の老職人の元で修行した。
2010年に日興エボナイトに入社して、ペン軸の削り出しから、ペン先の研ぎ出しまで、すべての工程を手作りする万年筆職人になった。
「仕上げの削りは、やり直しがきかないです。尻軸にキャップをはめたときに、ピタリと収まるように削り出す。このときに0.01ミリでも削りすぎると、尻軸にキャップは収まるが、使う人が万年筆を握ったときに違和感を覚えてしまう。購入してくれた人が気がつかないところにまで配慮して仕上げの削りをするんです。それが僕の仕事です」
 
笑暮屋の店舗は、対面販売のために営業している。
笑暮屋の店舗は、水曜日と金曜日しか開かない。
大量生産ではない万年筆であるがゆえの営業日程を選んでいる。
店舗にまで赴けない人のために、笑暮屋では通販のサイトを設けている。
そのサイトでは、笑暮屋の神髄を、若き天才万年筆職人、金崎徳稔の驚くべき技術と心遣いを見ることができる。それは何か。第3話で紹介しよう。
 
加工され延伸されたエボナイト
加工され延伸されたエボナイト
 


 
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