あなたは自分に似合う色彩を知っているだろうか。
自分に似合うファッションスタイルを知っているだろうか。

尋ね方を変えよう。
あなたは自分を魅力的に見せる色彩とファッションスタイルを知っているだろうか。

銀座スタイリストは東京の東銀座、歌舞伎座の隣のビルの8階に店舗を構えるサロン(洋品店)である。

オーナーの鵜飼孝次が言う。
「誰もが、すでにご自分のファッションを持っています。たいていは好きな色彩で、好きなシルエットが自分に合っていると信じています。好きなブランドがあって、好きなブティックで買い物をする。私の仕事は、その思い込みを打ち破り、お客様の魅力を120パーセント引き出すファッションを提供することです」

事務所前で鵜飼氏
事務所前で鵜飼氏
カラー分析
カラー分析

鵜飼孝次は強調する。
「100パーセントでは足りない。120パーセントの個性的魅力を提案してこそ、私の仕事ははじめて成り立つのです」

好きな色彩を持たない人でも、ファッションの王道として信じていることがある。
グレーと紺色、加えて白と黒ならニュートラルであって、誰にでも似合う。
選ぶ色彩に自信がないときには、白いシャツを着れば無難である。
赤いネクタイを締めれば情熱的に、青いネクタイを締めれば理知的に見せられる。
女性のスーツスタイルが地味で無難なグレーか紺なら、ブローチやスカーフでおしゃれに見せられる。

間違いだと否定はしない。しかし鵜飼孝次の手腕にかかると、上記のことはまったくの思い込みであったと気づかされるだろう。

さっそく鵜飼孝次の仕事を紹介しよう。

銀座スタイリストの店内に入る。たぶんあなたは驚くだろう。
洋品店だというのに、スーツやシャツやブラウスやネクタイなどの服飾品は何も置かれていない。

客を迎えるのは、一枚の大きな鏡だ。

完全予約制で、太陽光が銀座の街と店内を照らす日中しか接客を受け入れない。

その理由は、その人に似合う色彩群を分析するためである。

一般的なテーラーなら、生地見本を客に選ばせて、オーダーのための採寸に入る。そこに時間を割く。だが、鵜飼孝次は、客を鏡の前に座らせる。客に似合う色彩群は何かを分析するためだ。そこに、たっぷりと時間を割く。

色彩群は、スプリング、サマー、オータム、ウインターと4つのグループに大別できる。

鏡の前に座った客の顔を、鵜飼孝次は大げさなほどに両眼を見開いて注視する。
頬の色、肌の色、瞳の色、髪の毛の色を、そしてそれらのトータルな傾向を見極めるためだ。

シンプルに説明しよう。
頬の色がピンクだとしても、その奥にある色彩はイエローベースかブルーベースのどちらかだ。

ピンク色のポロシャツを選ぶとしよう。その上には赤い上着を着るとしよう。

イエローベースの頬の色の人に似合うのは、サーモンピンク。ブルーベースの頬の色の人に似合うにはローズピンク。その上にジャケットを羽織るなら、サーモンピンクにはオレンジレッド。ローズピンクにはワインレッドが似合う。

ピンクの色彩群、赤い色彩群でも、ブルーベースとイエローベースに2別できるのだ。

その人の頬の色がブルーベースならサマーかウインターの色彩群のどちらかの可能性が高い。
その人の頬の色がイエローベースならスプリングかオータムの色彩群のどちらかの可能性が高い。

鵜飼孝次は主観で判断するのではなく、客観的に分析する。
分析に使うのは、120色の布である。

布の見本
布の見本

太陽光が差し込む銀座スタイリストの店内で、客の胸のあたりに次々と色布を当てていく。

頬の色、肌の色、瞳の色、髪の毛の色が布地を当てたときに「映える」かどうかを見極める。

こうして似合う色彩を絞り込んでいく。

お気づきだろうか。グレー色ならニュートラルなのではない。
グレーの濃淡だけで選んではいけない。紺色も同様である。
グレーや紺色の布地にも、その奥に四季の色彩が隠れているのだ。

赤色のネクタイを締めれば誰でもが情熱的に見えるのではない。
イエローベースの個性を持った人が、ワインレッドのネクタイを締めるとかえって、消極的で暗い性格に見られてしまうリスクがある。

四季の色彩は、カラーチャートの明暗だけを反映したものではない。お客の魅力を引き出す色彩群は、赤色群の中のどの赤か、青色群の中のどの青か、紺色は、緑色は、灰色は、紫は、茶色は、どの色なのか。それを徹底的に分析していくのである。

この四季の色彩を分析するためには、人工的な照明ではブレが生じてしまう。

太陽光のもとで、鵜飼孝次は、その人に似合う色彩群を抽出していく。

似合う色彩群の分析が済んでから、その人の服飾を作り始めるのだ。

スーツ、シャツ、ネクタイ、ベルト、靴。基本のセットは5点。簡易で安価なパターンメイドも受け付けるが、基本的にはまったく何もない状態からのフルオーダーメイドで作り上げていく。
フルオーダーで5点を作り上げて、50万円からである。
スーツだけで、その金額を超えるオーダーを繰り返してきた私には安いと思えた。

では、ファッションスタイルはいかにして分析されるのか。それは第2話で紹介しよう。


取材・文 浦山明俊